512(その他)

このページに置いたものは半角512文字縛りではない短い掌編たちです。厳密に言うと512シリーズではないのですが、同じ短いシリーズということでここにまとめておきます。
2016/05/01

ロストピース

その惑星の人々は、彼らの星に寄り添ってまわる小さな衛星を「あの子」と呼んだ。宇宙飛行士が初めて「あの子」の大地に降り立つその日、惑星の人々はまるで恋人に再会するかのように盛り上がった。
けれど当の宇宙飛行士の心は虚ろだった。彼の心には生まれた時から穴があいていて、いつでも風が吹き抜けていた。埋めようにも、何もはまってくれないのだ。
宇宙飛行士は無造作に「あの子」の砂の上に足を踏み出した。すると地面から奇妙な生き物が姿を現した。驚いたことに生き物は、彼の心の穴と同じ形をしていた。何十億年も昔々、彼らの惑星を大きな流れ星が掠めていった。その激しい衝撃に、惑星は欠けて飛び散った。かけらはやがて集まって星になり、惑星の周囲をまわり出した。そうか、あのときなくしたかけらは、ずっと、
「ここに、いたのか」
宇宙飛行士は生き物を抱きしめた。涙が流れた。

岩木 尋(水丘コータ)さん主催 活版ポストカード集「ASTRONOMICAL」に寄稿した作品です。

以下、twitter(現X)で書いた全角140文字以内のゾンビに関する陰鬱で短いお話たちです
2011/06/16(木)

ゾンビ小話-1

(僕は今ほんとにハッピーなんだ。恨んでなんかもちろんない。見てよほら、僕とても求められてる、僕の存在で誰かが生きてる、僕がいなきゃ生まれない命まで。君には感謝してるんだ)
確かに殺して山に埋めた筈のあいつは、体中を虫に食われながら俺の方へと近づいてきた。 #twnovel
2011/06/16(木)

ゾンビ小話-2

もうだめだ噛みつかれた、俺はゾンビになってしまう、と言って、わたしを散々殴った手で彼は縋りついてきて涙を流していました。しにたくないよ、と、胎児の姿勢で呻くその声はとてもセクシーで、わたしは生まれてはじめて彼を愛しいと感じる。あのゾンビはきっと神様だったのだ。 #twnovel
2011/06/16(木)

ゾンビ小話-3

(「ゾンビだらけのこの世界できみが生きてゆけるために僕に何ができるのか、大事なのはそこなんだ。躊躇っちゃだめだ、僕をゾンビを倒す最初の練習台にしてくれたら嬉しい」と書いた遺書はどっかいっちゃったのでそのゾンビがなぜ口を縫い閉じてあるのか誰も理由がわからなかった。 #twnovel
以下、twitter(現X)でいくつかの診断メーカーで出たお題をもとに書いた140字小話たちです。ゾンビばっかりです。
2011/06/20(月)

お題140字 1

診断メーカー「140文字短文キーワード」さんにて出たお題、 「星空」「指先」「抱擁」を使って書いた140字小話

(抱擁ぐらいはしたいのですが)と、ネネ君はテレパシーで言ってから、β爆弾でバラバラにされ人差し指だけになってしまった体をくねらせて、同じく薬指の先しか残っていない私を抱いた。(こんな有様ですのでどうかこっちを見ず、星空でも眺めていて下さい)(安心して。目もないから)(そうでした)
2011/06/22(水)

お題140字 2

診断メーカー「140文字短文キーワード」さんにて出たお題、 「ゼロ距離」「唇」「二人」を使って書いた140字小話

自らを餌にして襲わせ、ゼロ距離から射撃する方法で有名なそのゾンビハンターは、唇のないゾンビに拳銃を押し付け「二人の最後のくちづけに乾杯」そう囁いてから引金をひいた。何ですそれ?と尋ねると彼は恥ずかしげに答えた。「ゾンビ化した恋人とキスをしてこうなった人なんじゃないかなと思って…」
2011/06/23(木)

お題140字 3

診断メーカー「140文字短文キーワード」さんにて出たお題、 「夢」「好物」「情」を使って書いた140字小話

「あんたに情があるなら、今すぐ私の頭を撃って!」ゾンビに噛まれた女は懇願したが、男は首を横に振る。「大丈夫、きみの好物がラザニアから人肉に、きみの夢が踊り子から内臓完食に変わるだけ。さあどこへでも行きな」男はゾンビ化した女を野に放った。女はよろめきながら新しい夢を追い歩き出した。
2011/06/25

3つの恋のお題1

診断メーカー3つの恋のお題ったーさんで、出たお題:どこか遠くに二人で逃げたい/嘘つき、とそのくちびるが言った/今ここで抱きしめたい から

「どこか遠くに二人で逃げよう、ゾンビのいない所に」という彼について無人島に来た。「ここで二人で暮らすのね」私はわざと彼の唇に顔を近づける。「嘘つき」と、その唇が告げる。「知ってたくせに」「そうだね知ってた」今ここで私を抱きしめたい衝動と食欲との板挟みになっている彼がいとしかった。
2011/06/25

キスお題

診断メーカーキスお題ったーさんで出たお題:シチュ:教室、表情:「気恥ずかしそうに」、ポイント:「拘束具」、「自分からしようと思ったら奪われた」から

教卓の後ろに彼女は本能で隠れていた。だが彼女は放課後の教室で告白する相手を待っている訳ではない。入って来た男に彼女は飛びかかる。男は彼女に網を投げ、もがく彼女の口に拘束具をはめた。「ゾンビになっても奇麗ですね」男は気恥ずかしそうに言い、彼女の唇を奪う。彼女はうなり声をあげている。
2011/06/26

3つの恋のお題2

診断メーカー3つの恋のお題ったーさんで、出たお題:好きな人は君だよ/今ここで抱きしめたい/あまい蜜のような から

あまい蜜のようなあの香りがして彼女は顔を上げた。かれがいる。彼女はまっすぐ廃屋へ。中には男が一人。「ま、またこのゾンビ…こいつなんで俺ばっか狙うの」彼女は今ここで彼を抱きしめてやりたくなる。すきなのはきみなの。きみのにくがいいの。「もがあ」という唸り声で彼女はその気持ちを伝えた。
2011/06/26

3つの恋のお題3

診断メーカー3つの恋のお題ったーさんで、出たお題:いつまでも交わらない、ねじれの関係のように/怖くない、と言ったら嘘になるけど/手遅れになる前に から
なぜか上の話の対になっています。

怖くないと言ったら嘘になる。だがどうしてこいつは俺ばかり狙うのか。こう毎度襲われては俺は困る、困るのだ。こいつはゾンビで俺は人。俺たちは交わらないねじれの関係にある。手遅れの感情を抱く前に撃たなければならないのはわかってるけれど。「…またきたの?きみ」ああゾンビをきみ、だなんて。
2011/06/26

  

上2編の続き的なもの。同じく140文字内。こちらはお題なしです。

コンテナに隠れて標的に接近するハンターの前に男が一人、現れた。
「あれは撃たないで下さい」
「生前の恋人かね?そういう感情は命取りになるぞ。どきたまえ」
「べ、別にそういうのじゃ…ただあれが俺ばかり狙うから俺、」
「何で照れてるんだ君」
「いいから帰って下さい。あれを撃つのは俺が許さない」
以下、twitter(現X)で書いた雑多な140文字小話。ゾンビ多め。タイトルなしはお題無し、タイトルありは先述の診断メーカーさんで出たお題ありのものです
2011/7/2

お題:私生活、背骨、電波

「背骨に特殊な電波を照射する事で、制御できるのです」博士は言って、助手の拘束するゾンビに電波を流した。「こうすればしつけも簡単に」「素晴らしい」賞賛するお偉方。ゾンビは奇怪な悲鳴をあげる。「ぎぃいきゃァア!」僅かに残っていた生前の生活の記憶が全て消失してゆく絶望の悲鳴であった。
2011/8/5

  

ぼさぼさの髪を風になびかせ、とうもろこし畑に佇んでいたかかしゾンビは口笛の音に振り返る。顔色の悪いカウボーイは、ナイフで小さく切り取った自分の肩肉を彼女に向かって投げてやる。「ほーらよ!」肉片を追って転ぶゾンビに「慌てるなって」と声をかけるカウボーイを、村人達が遠巻きに見ていた。
2011/8/5

  

カウボーイは柵に寄りかかりながら、とうもろこし畑のかかしゾンビが肉片を食べる姿を眺めていた。村人達の1人がわざと聞こえるように言う。「気味の悪い野郎だ!」カウボーイはゾンビに微笑んだ。「なになに?あいつの肉が食べたいって?そうか」
2011/8/5

  

カウボーイはとうもろこし畑のかかしゾンビを眺めている。昔飼っていた犬を思い出す。肉片を食べ終わったゾンビはカウボーイに近づくが、首輪の鎖がガチンと鳴り、その足は目前で止まった。犬とは違う、死人の髪に頬を撫でられ、カウボーイは呟く。「セクシーだぜ今日も」ふたりの喉が同時に鳴った。
2011/8/11

  

ニコちゃんは目と口を針金で縫われたゾンビ。ちょっと笑っているようにみえるゾンビ。ニコちゃんは獲物が見えない。ニコちゃんは口をあけられない。でも本当はあけられる。あけないだけだ。本当はにおいでわかる。待っているだけだ。ニコちゃんは自分の目と口を縫った人が食べたい。だいすきだからだ。
2011/8/11

  

あるく、たべる、つかむ、たべる、あるく、きく、みる、あるく、あるく、あるく、あるく。ふたつのいっこがやられた、あるく、あるけない、あるく。いっこになった、あるく?ちがうはねる、はねる、いっこになったらはねるのがいい、はねる、はねる、いっこがはねたがっている。(片足ゾンビ)
2011/8/13

  

最後に彼女の唇が発した音を彼は憶えている。けれどその音が持つ意味を忘れていた。意味を失った5つの音。彼は小さな呻き声を上げた。記憶の中のその音を再現しようとしたのかもしれない。呻き声を聞いたゾンビ狩りに物陰から狙撃され、彼の頭は四散する。5つの音の記憶も砕けて消えた。さようなら
2011/8/19

  

わたしの体の金属板を切り分ける部分が叫ぶ。すきすきすき、すきすきすき。わたしの体の金属版に文字を刻印する部分が叫ぶ。工場長さん、工場長さん、工場長さん、工場長さん。わたし働くから、工場長さんわたし一生懸命働くから。と、オートメーションの工場は煙を吐いた。
2011/8/22

お題:遠距離、薄着、冷たい

胎児の姿勢で砲弾の中に入ると自分の体温が直に感じられて暖かいような気がしてしまう。だからつい薄着のまま発射されてしまったけど、そうだ、砲身は南極に向けられていたのだ。体が冷たくなってくる。うかつだ。僕の人生は最後もそんな感じなのねと、遠距離射撃のゆるい円弧が終わるまで苦笑した。
2011/8/22

  

街灯の下でくちづけを交わしたあと「ごめんねもうサーカスはおしまい」と囁いたあのひとはどろどろと溶けてなくなってしまった。いやなくななったのではない、グラス一杯程度の液体になってしまったのだ。犬がやってきてそれを飲んだ。犬を追い払い、私も跪いてそれを飲んだ。さよならの味がした。
2011/8/22

  

将来何になりたいですか? いぬ。 それはどうしてですか? 犬が好きだから。 獣医さんやペット屋さんやブリーダーではなく? 獣医さんやペット屋さんやブリーダーが好きなわけじゃないです。 きみは馬鹿なんですか? ちがいます、既に努力を重ねて半分いぬなだけですガブリ。 (血しぶき)
2011/8/26

  

人を殺して山に逃げて来た男は、ケーブルカーの線路を歩いていたカメムシと目が合った。カメムシの模様はドクロに似ていた。男とカメムシはケーブルカーに轢かれて死んだ。男は地獄に行った。血の池のほとりの岩の上のカメムシと目が合った。「おまえか」と男は言った。「よう」とカメムシは答えた。
2011/09/03

  

声は怒っていた。「ボギーはきさまのこぼれ弾があたってしんだのだ!」「こぼ…流れ弾のことか?」「ちがう!こぼれ弾だ!きさまがこぼした弾丸がボギーをつぶしたのだ!忘れたのか!」声は俺の足元からしていた。「それとも気付かなかったとでも言うのか!」小さなダニは俺の足に噛みついた。
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