知らない

「知らない」は、ほとんど自動筆記のようにして書いた、散文というより怪文書と言う方が近いようなものたちです。書いた時期はまちまちで、正確な日付はわからなくなってしまいました。

ねずみ穴の3人

ジェミニー航空隊によって四文字爆撃された不可思議村の人々のうち、奇跡的に漢字を間違えて覚えていた、ヘンリー、ジュスタル、バンバゲーラの3人は、ねずみ穴の中に閉じこもって報復の歌詞を考えていた。ヘンリーは蝋燭立てを振って気合い充分だったが、ジュスタルは気合いという概念自体に否定的だったので、三時間後、ヘンリーを半角カタカナで刺した。
「狭い部屋で何を!」
と、バンバゲーラが叫ぶ。語尾が緊張で裏がえった。だが、それが良かった。
「それだ!」
と、ヘンリーが半角で笑った。ジュスタルも笑顔で言った。
「それだ!も、それだ!」
こうして歌詞が決まった。3人は忘れないようにハガキにそれをメモして自分宛に送り、ジェミニー航空隊の泣き叫ぶ様が目に見えるようなバンドにしたい、と誓った。
…脅迫に使うためのドラムを買うために、一生懸命ヌードデッサンのモデルがんばろうね…
ヘンリーの心の声が半角で聴こえたみたいな気持ちが少ししたが、文字化けした。

ハート

プードルと二人、百円そば屋に行ったら、いちげんさんはお断りされた。淋しかった。
ただれた住宅街をホトホト歩いていると、突然プードルが空を指差した。
「おい見ろ!ハートが浮いてるぞっ」
本当だ。真っ青な空に、ピンクのハートが一個漂っている。こっちに近づいてきた。ぼんやりそれを眺めるばかりの僕を、興奮したプードルが少し噛んだ。
「佐渡っ、ちゃんと見ろよほらァ!ハートの中に何か入っていないか!?」
正直どうでもいいが、見れば確かに何か入っているように思える。そだね、とか何とか、適当な答えを返しているうちに、ハートはぐんぐん迫ってきた。
「佐渡ォ!!」
プードルが妙に必死な声で僕の名を呼ぶ。
なんだよ。
「あのハートの中に入ってんのって、佐渡、お前じゃねーかっ!」
え…なんだって…?

思い出

ガ嶋が死んだ。
昆虫ショーを見に行った帰り道、ふと立ち寄った総合病院で運命の歯車に巻き込まれ、全身の骨という骨がダイヤブロックになってしまったのだという。気の毒な話だ。
ガ嶋とは、そこまで親しくはなかった。高校が一緒だっただけで。けれど、奴と俺との間に、一つだけ思い出らしい思い出があるとしたら、それは間違いなく修学旅行の夜、二人で行った二次元空間だろう。
厚さのなくなったガ嶋が、ふざけた描き文字で、
吸血鬼みたい
と言ったのを、俺は今でも鮮明に覚えている。
ガ嶋の棺に手を合わせ、焼香をしながら俺は呟いた。
…ガ嶋、今はお前の方が、吸血鬼みたいだな。

真夜中に呼吸

フクロウが、すっごくおいしいねこれ。と鳴いた真夜中。藤原ヨシナベは、ファット博士の研究室から、空気でいっぱいのカプセルを密かに持ち出す事に成功した。
このカプセルさえあれば、これからは好きなときに呼吸が出来るのだ。生命活動がしたくてたまらなくなっても我慢しなくていいのだ!
ヨシナベは、普段から呼吸を我慢するのが苦手だった。公衆の面前で深呼吸してしまったことすらある。それはもう、生きてるみたいに、スーハースーハーしまくったのだ。思い出すだけで恥ずかしさに涙が出てくる。
ああでもこれからは!
ヨシナベが嬉しさに顔をほころばせたその時、
ほーい ほーい
ファット博士の怒り狂う音声が聞こえてきた。
ほーい ほーい
探している!
ヨシナベは、鼻と涙を噴出して生命活動を堪能しつつ、豚を用意して、武器となる木の根っこを豚に見つけさせた。
ほーい ほーい
ヨシナベはカプセルで、最後の呼吸をするとおもむろに木の根っこを振り上げた…

先輩の家

山の頂上に、古ぼけたガンダムの頭部が打ち捨てられている。それがアン条先輩の家だ。北高の2年坊で、この家に招かれたのはエギ村が初めてだった。
「あ…お茶…ねえや…水、のむ?」
アン条先輩はドングリの帽子に霜柱の先端を入れてエギ村に差し出した。
「すいません!」
エギ村は恭しくそれを受け取って飲んだ。家の中には土と枯れ葉しかない。生活感ゼロ。
だがここが!南高との抗争で50人病院送りにした、あのアン条先輩の自宅なのだ。エギ村は興奮した。手に乗ってきたアリを枯れ葉でサンドして食べているアン条先輩を期待に満ちた目で見つめた。
「え…どうしたの」
アン条先輩は洞窟のような目でエギ村を振り返った。
「先輩!修行は、どこでしているのですかっ」
「はァ?…あ、ゲホッゲホッボグェエ」
エギ村の唐突な発言に驚いたアン条先輩は、喉にアリが引っかかって気持ち悪くなった。エギ村に背中をさすってもらいながらアン条先輩は涙目で声を絞り出す。
「…なん…しゅぎょ…ゲホッグエッ…おま…」
「先輩!」
そしてその時、アン条先輩の喉の辺りで、アリは、楽しかった修学旅行を思い出していた。アリは死の間際に確信した。
あの時、巣の中で好きな男子いる?と聞いたら、バージョは「いない」と、答えていたが、本当は絶対、ベラスケスの事が好きなのだ。働きアリのくせにっ…バージョの奴!
アン条先輩は少し吐いた。

thing

二日前、バッドショッピングで、「スーパー窓から落ち太」を買ったばかりなのにもう新型が発売された事に衝撃を受けたデハ石は、真新しいスーパー窓から落ち太を小脇に抱えて外に飛び出すと、冷たい多摩川の水中に、スーパー窓から落ち太を投げ捨てた。新しい窓から落ち太が発売されてしまっては、こんな旧型の窓から落ち太はゴミである。無念極まったデハ石は、CMでしか使われる事のない、珍しい青い尿を流して悲しんだ。
ふと顔を上げると、デハ石の目に、落ち葉に囲まれて川を流れてゆくスーパー窓から落ち太の姿が映った。
物は涙を流さない。ましてや青い尿など、流したくても流せないのだ!
デハ石は、傲慢にも珍しい尿など出した自分が急に恥ずかしくなった。靴が濡れるのにも構わず、川に飛び込み、スーパー窓から落ち太を掲げ上げた。
すまない、スーパー窓から落ち太!俺は…生き物だからっていい気になっていたんだ!
そしてデハ石は直ぐに家に帰り、スーパー窓から落ち太を二階の窓から落とした。スーパー窓から落ち太は、犬小屋の屋根に当たって粉々に割れた。きっと明日は虹が出るだろう。

共存

ブネリコーネ・ストレッキオの書簡集にもあるように、
「汝、バクテリアと共に働くべからず」
というわけでダ比奈は、就職よりバクテリアを選んだ。後悔は無い。素敵なバクテリアと共存して栄養をもらい、快適ライフをエンジョイ。
家は無いが、言ってみればダ比奈自身がバクテリアの家である。22歳にして一国一城の主になった、噂のラッキーボーイこそがダ比奈マカ雄・22歳、一国一城の主、ラッキーボーイという噂。
「別に構わないぜ、ループ人生はバクテリアの基本概念だからな」
ライフスタイルはバクテリア中心。時々、ヒューマニズム宣教師からゲタ箱に果たし状をもらえる特典付き。
「拝啓、ダ比奈様。神はバクテリアにお慈悲を与えたか?否、何故なら神は電子顕微鏡を買う金があったら不幸な人にあげるので、ずっと電子顕微鏡が買えないから神は可哀想。というわけでお時間いただけますか?宣教師より」
たくさん集めた果たし状を、どんど焼き。暖かいけれど顔が熱くなる。どうせ熱くなるなら言ってしまえとばかりに、ダ比奈は、いつもハンバーグ味の栄養をくれるラブいバクテリアに告った。
だがふられた。
腹いせに、少しだけ残っていたヒューマニズムを全部どんど焼きした。すっきりした。

労働

働き者のお爺さんとお婆さんがいて、お爺さんは山に働きに行き、お婆さんは川に働きに行った。
お婆さんが川で死ぬほど働いていたら、川から労働基準法が流れてきて、お婆さんは慌てて休んでいるふり。
あーもう今日全っ然働いてないよーやばいよー
などと口笛吹き吹き鼻くそ小指。そして労働基準法が去ったとたん、お婆さんはものすっごい働きまくった。
もちろん同じ頃、山でお爺さんも有り得ないくらい働いていた。しかも道具を一切使用しない!素手で労働!
二人は、夕方帰って来ても、休まない。休んでいるふりをしてお互いを牽制し、見られていない時は隠れて働いているのだ。
相手が働いているのを見た時は、ここぞとばかりに馬鹿にしたいという願望が膨れ上がる。
やーい。何働いちゃってんの?馬鹿みたい。
そう言いたいお爺さんとお婆さんはすごい目で互いを監視していたら、普段からそうゆう目の人になってしまった。
医者に、
「一生ゲイラカイトのような目のままです」
と言われた。ああ、その病室の壁の、白さ。

裂けた剣客

東海道に背いて蛇行するコブラ電車に揺られ、旅また旅の、その日暮らし。ちょいと内向的なイイ男、小浦針墓之介(こうらハリボのすけ)は、沈鬱な気分で徳利蕎麦屋の暖簾をくぐった。ラッシャイ!の一言も無い半溶け店主の態度に腹をたてる余裕はない。何故ならば針墓之介は、考えていたのである。
自分で自分の事を剣客、と言うのはいかがなものだろうか、と。
仕事らしい仕事をしておらず、たまに期間限定の用心棒をするだけの無職の針墓之介は、「何をなさっている方ですか?」と訊かれた時、いつもすごく悲しい気持ちになる。昨晩それを、同じ境遇のダマリンに相談したら、ダマリンはこう言ったのだ。
「剣客って言えばいいじゃん」
だが、針墓之介は自分の事なのに「客」という字を使うのは変なような気がしたので、
「変だよ」
と言ったら、ダマリンはいきなり抜刀した。
「拙者いつもそう言ってんですけど」
ダマリンはすごく怒っていたので針墓之介はダマリンを斬った。
結局、針墓之介は昨晩のうちに自ら「剣客」と名乗るかどうか決めることが出来なかった。
ああ、どうしようかな…それにしてもこの徳利蕎麦、なぜ蕎麦を徳利に入れる必要が?逆に食いづらいのではないか?
と、そこで針墓之介の思考は中断された。突然、何者かに背後から、わっ!と驚かされたからだ。刀で。
「なにやつ」
針墓之介が訊ねると、虚無僧姿の刺客は
「貴様の命を狙う剣客さ。宵闇のジョンソンとでも呼んでいただこうか」
と答えた。針墓之介はショックをうけた。
こやつ、自分で自分の事を剣客と言っただけじゃあない、宵闇のジョンソンなんてかっこいい名前を自分で名乗るなんて、どういう神経してんだ?
「ばか!恥を知れ!」
針墓之介はジョンソンを裂いた。
拙者だったら絶対、そんなかっこいい名前名乗らない。むしろかっこよさから出来るだけ離れた方がかっこいいって思うタイプ、拙者は。で、考えすぎてクソ山クソ衛門とかにしちゃって、後で後悔するタイプ。いっつもそう、拙者って。
ジョンソンは裂けた。

バー子は俺を殺す気だ

俺の隣でスケート靴を食べるバー子の右手はフッ素加工されている。
おそらく、バー子は 俺を殺すのだろう。トマト味のスケート靴には、血塗られたスケート選手という意味が込められている。
スケート選手、とはつまりは俺のことだ。昔、納豆のフィルムで転んだ時の事を指している。
まずいことになった。
俺は最後の願いを込めて自分で自分を土佐犬の顔に整形手術し、わざと失敗した。これは、土佐犬でない、つまりお土佐だ、でない。音沙汰がない、の意味である。フジ江とはもう、きっぱりと別れて音沙汰も無いという事を表している。
だがバー子は俺を許すつもりは無いようだ。俺は彼女の髪の1本1本に小さなフサオマキザルが巻き付けられているのを見てしまった。
フサオマキザルの尾は既に巻いている。そのフサオマキザルで、更に髪を巻くという行為は、裏切った俺を、更に裏切る事でしか彼女は救われない、という気持ちのあらわれだ。
俺はふざけた顔をしてみせた。胃の腑(ふ)が裂けたような苦しみを感じているよというアピール。
だがバー子はそれを見ると、フッ素加工した腕で俺を殴りつけた。
フッ素加工だから、血糊はティッシュでひと拭きするだけで、すぐ落ちた。フッ素加工ってすごいな、の意味を込めて、俺の魂は地獄に下降して行った。

ハニーハント

ダダ井は腕のいいハニーハンターだった。壷のようなものを抱えて山に行っては、その壷を蜂蜜で一杯にして帰ってきた。だがダダ井は貧乏だった。なぜならばダダ井は、蜂蜜をとるのがものすごく上手い代わりに、蜂蜜しか食べることができない体になってしまっていて、とってきた蜂蜜をほとんど全部自分で食べないと死ぬからである。
残ったほんの少しの蜂蜜を売っても、下手なハニーハンターの儲けの半分にも満たないので、ダダ井はずっと貧乏。
そんなある日、いつものように山に行ったダダ井は、ちょうどいい蜂の巣のところで野生のクマと出くわした。
このクマは、名前をフルシェンコと言い、趣味はキノコグッズ集め。
ダダ井はすごく蜂蜜が欲しかったし、蜂蜜がないと餓死するので、譲ってもらいたいのだが、やはりそれを直接口にするのははばかられた。はいはい、出た出た、若者特有の傍若無人精神。などと思われるのが恥ずかしかったのである。で、ダダ井は、こういう場合に分別のある大人がとる行動として、丁寧に
「うわーくまだっ」
と言った。
一方、フルシェンコも野生動物として、食える栄養源を見逃すことが未来の餓死に直結するような世知辛い世界に生きているわけで、やはりこのような場合、世知辛さの度合いが多少弱めな世界に生きる人間にはこの蜂蜜をご遠慮していただきたいところだ、と思っていたが、それを正直に告げようものなら、はいはい、出た出た自然界の掟、強い者が得る、でしょ、などと思われるに決まっているので、それは恥ずかしい。フルシェンコは、礼儀正しく、警戒心をあらわにした熊を演じる事にし、グオウ、などと言って後ずさった。
つまり双方、儀礼的に一旦引いた形になったのである。
ここでダダ井は思った。
「あれっ?いいんですか?ならいっちゃおっかな」
フルシェンコも思った。
「あ、いいんですか?じゃあお言葉に甘えて」
数秒後2人は同時に蜂の巣に飛びついた。
本当に、まったく、同時だった。誤差ゼロ。そのシンクロ率は自然界の常識を超えたため、宇宙の根源に歪みが生じた。
はじける閃光!目もくらむような!
そして次の瞬間、ダダ井とフルシェンコは2人で1つの物体・ダダシェンコとなっていた。人でありながら同時に熊である、ダダシェンコの中で、ダダ井は
「ああ、もうハチミツばっかり食ってても恥ずかしがる事はないんだ」
と思い、フルシェンコは
「ああこれからは、熊だからという理由で売ってもらえなかったキノコグッズが買えるぞ」
と思った。だがそれがダダ井とフルシェンコの最後の思考となった。
なぜならダダシェンコはもうダダ井でもフルシェンコでもなかった。新しいものとして活動を始めたのだ。
ダダシェンコ!うなる速さで霧を食い、ホバークラフト集めに夢中!

先生ありがとう

ビッグベン風の、にせ時計塔が大きな音でにせの時間を告げた。深夜0時、と見せかけて実は昼の11時なのだ。
真夜中っぽい雰囲気をかもし出すため、満月やら野良犬やらコウモリやらが頑張っているのだが、太陽だけはどうにもならないようである。炎天下。
そこでとうとうドラキュラ先生の登場である。全身に包帯を巻いた上に宇宙服を着て日光を完全ガード。いざ出動。すると道行く人々が先生を取り囲み、
「透明人間の方ですよね!」
と、写メ。
「ちがいます、ちがいます」
ドラキュラ先生は走ってバーみたいな店に逃げた。昼だから店は開いてなかったが、先生は
「すみませんが今は深夜という設定なのであけてください」
と頼み、あけてもらった。深夜の客としてワケアリな男女っぽい人々と、シャブ中っぽい人々、あと切り裂きジャックっぽい人々にも電話してきてもらったので、すごく深夜っぽくなった。先生は宇宙服を脱いで、
「みんな、きてくれてありがとう。本日はおひがらもよく」
と言った。誰も聞いていなかった。床に吐瀉物が落ちていた。誰が吐いたのだろう。ドラキュラ先生は、シャブ中っぽい人々のうちの誰かのものだと思い、吐瀉物の落とし主を探してあげた。
「どなたか落とされましたよ」
「それは僕のです」
挙手したのは意外にも、店のマスターだった。マスターは陰気な表情でとても喜んだ。明日使う予定があったので、落として困っていたのだ。
「ドラキュラ先生ありがとう」
マスターが言った。店のみんなも言った。
「ドラキュラ先生ありがとう。ありがとうドラキュラ先生」
ドラキュラ先生は、爽やかな気持ちになった。深夜0時の設定なので、その場の全員の血液を吸ってから帰ろう、よし、やろう。

砂ケシ

歯サッカー界期待の新人、矢魔田小菓子は、18歳なのにウェルダム栃木の中心的存在となって、生意気。
ボールを歯に刺したまま歩くルールすれすれのラフプレイが生意気。
ファンにも歯ぐきを見せない秘密主義。
生意気。
生意気。
ヒヤリ・ハットトリックを決めたとき、相手チームの選手が日光の反射光を防ぐためにつけていた青のりを馬鹿にしたので生意気。
相手チームの選手かわいそう。
でもこないだ矢魔田小菓子がスタバで砂ケシを食べていたのを見てからは、ちょっとした時間にも歯を鍛えるすごい奴、と思うようになった。
受験の時、砂ケシしかなかったから砂ケシで消したら、ぐちゃぐちゃになったので砂ケシは生意気。
矢魔田小菓子にはこの世の砂ケシを全部食べて欲しいのでガンバレ!

最初から25

こんばんは。俺の名は、偽小金井(最初から25歳)。さっき道に落ちていた骸骨に、筋肉を貼り付け、落ちないように脂肪でとめて、その上に皮膚を塗って乾かしてできた良い大人です。できあがったばかりで何ですが、さっそくくだらない日常をやろうと思い、ブルートレインで首都東京に繰り出した。
東京駅の銀の鈴の前で独りで待ち合わせとうそぶく。手頃な会社員を見つけたら、後を付けて、何気ない様子で会社に不法侵入。あたかも働いているような動きで空あくせく。昼休みには給湯室で女子社員たちに紛れて悪口風の口パク。おっと、アゴがズレてきちまった。あぶねぇあぶねぇ。
そんなこんなでタイガーパレス306(空き家)を占拠した俺は、嬉しくなって、ついついバラエティー番組など見ている真似事。
ワハハハハ。ワハハハハ。この、押し竹メイビーって芸人おもしろーい。
電源がついていないのにここまで出来るなんて、まったく偽人間やらしとくのは勿体無いほどの俺のド迫力演技。満点。
だが俳優にはならない。なぜなら俺には夢があるからだ。
一度で良いから、森林公園に行ってうるしにかぶれたい!
寝るふりをする直前にそんな事を思いついてしまったので、興奮してしまって、もう寝るふりどころではなくなってしまった。矢も楯もたまらず夜の新宿に飛び出した俺は、すごいスピードで、全日本うるしかぶれわざとの会を作った。端っこのほうちょっと失敗したが、あたたかい色使いの素敵な会に仕上がりました。はやく森林公園に行くのが楽しみです。この会ではあだ名で呼び合うことにしよう。俺の新しいあだ名は、仮面ライダーわざとに決めてある。
関係ないが、偽人間の寿命は5日だって。馬鹿にしている。長すぎる。だって明日には絶対森林公園に行くから。

バーストこんぶ

出来レースで、100人殺した。隠し剣、俺の爪はとんがりコーン。全部。
バーストこんぶがファーストネーム。植物界からのスナイパー。おまえたちを狙います。宣言。
生産した栄養を奪うばかりの馬鹿ども動物は、俺が全てキルする。好きです。die好きです。
これからは植物が動物を積極的にファーストフードとする時代。価格がすごくバリュー。おしゃれな植物はみんな行く。おいしい生き血を飲む植物たちの緑色の笑顔ステキさ。
光合成は文化としていちおう残すが今後は動物にやらせる。馬車馬のように働いて、永遠に糖と酸素を作るそれがナウい。
バーストこんぶのアタック。ファーストフードをストック。バーストこんぶのアタック。更にファーストフードをストック。
みんなで輪になって動物を囲んで指差して笑う夢にむかって明日からレインボーがんばる!<

ハマダのくるぶし

化粧品みたいな丸い透明ケースに、切り取ったくるぶしを入れ、コンビニで売った歯魔田は、それで大儲けしてビルまで建てた。
ハマダのくるぶしといったら今や知らない者はいない。
クソッ…うまいことやりやがって
間蚊雄は毒づいた。どうして歯魔田の汚いくるぶしなんかがこんなに売れて、自分の思いついた牛球が全く売れないのか、間蚊雄は理解できなかった。
牛球は、ガチャガチャの玉の透明な半分を牛の目玉に付けられるようにしたやつである。牛球を付けると、牛が出目金のようになり、可愛いし、牛の目にハエがあまり来なくなるから、牛はかなり嬉しいはずなので、牛はみんな牛球を付けたらいい。
間蚊雄はそう思って牛球の行商を始めた。
だが連れ歩いていたモデル牛が悪かったのか、牛球は全く売れなかったのだ。間蚊雄は先日、モデル牛をクビにした。モデル牛はかなり怒っていた。
だから今は間蚊雄は自分の目に牛球を付けて売っている。だが牛球は牛が付けてこその牛球だ。間蚊雄が付けてもその魅力が充分に伝わらないのは判っていた。
牛球ゥー、エー、牛球ーゥ、
ガチャ玉ァの牛球ゥ~、
ポッコリ出目の牛球だヨーェ
かすれた声で間蚊雄は歌いながら、忌まし目街道を練り歩く。誰も見向きもしない。
疲れたところでコンビニに入ると、ハマダのくるぶしが売られていた。間蚊雄はくるぶしを1つ買ってみた。なぜこんなものが売れるのか、研究しようと思ったのだ。
パッケージを開封するとハマダのくるぶしはコロンと間蚊雄の手のひらに乗っかった。
小さくて、生暖かく、こりこりしている。
間蚊雄は、モデル牛のことを思い出した。
彼女には牛球がとてもよく似合っていた。
だから彼女をモデル牛に選んだはずだったのに。
間蚊雄はくるぶしを親指でコリコリと回した。
くるぶしは小さくて、人の足に付いていたものとは思えないほど頼りなく、そしてその切り口は、何だかとても残酷だった。
ごめんな、ごめんな、
間蚊雄はくるぶしを回しながら、涙が止まらなかった。

イノセント

これほどまでに頼んでも、地獄には入れてもらえないのですか。なら僕はどうすればいいんですか?
傍観していただけだから
罪には問われぬ、と貴方言うけれど、僕が天国暮らしってどう考えてもおかしくありませんか。
だって遅れてきたアンゴルモア大王がこの世界を滅ぼすのを、すぐ隣で僕は笑って見ていました。どうせ死ぬんだから筋肉モリモリ、メメントモリモリ、とか言ってただ見てました。遅れてきたアンゴルモア大王と一緒にゲーセン行って、こんなの出来るわけねーじゃんと言いながら初めてやる音ゲーの一番難しいコースをやって10秒でゲームオーバーになり、ほらやっぱね、と、乾いた笑顔で言ったりもしたのですよ。
それなのに遅れてきたアンゴルモア大王だけ地獄行きで僕は天国行きなんて、そんな馬鹿なことがありますか。
それに僕は、イノセントな歌詞のロックンロールを歌いました。これは明らかに罪です。何故ならば道化系ニヒリストかつペシミストの人は、イノセントなロックンロールを歌ってはならないからです。どうです?これで僕を地獄に入れる気になりましたか?
何ですって?たとえふざけ半分だったとしてもイノセントなロックンロールを歌う事自体が、僕の最後のイノセント成分であり、それは天国に行くべき資格として充分なものであると、あなたはそう仰るのですか。何というおめでたい人だあなたは!あっ、これって中傷ですよ、誹謗中傷。
良いでしょう…そこまで言うのならばとっておきの罪を告白しようじゃありませんか。
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんと僕がいました……ちょ、待って待って、違いますよちゃんと最後まで聞いてくださいよ!ふざけてません!せっかちな人だなもう。続けますよ。昔々あるところにお爺さんとお婆さんと僕がいました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました、僕は家でベンチプレス100回と、オオカナダモの面白い生態を顕微鏡で観察しました。
はいっ!
どうです?何という悪党だ、言葉も出ない、といった表情ですねぇ?ククク…でもそれだけじゃあないんですよ…僕はね、お婆さんが持ち帰ってきた桃を、食べたんですよ。それもかなりいっぱいこぼした!食べながら喋ったからです。
ほうら、ほうらどうだ、これはもう完っ全に地獄行きでしょ……
え、駄目?それどころか自分の肉体を鍛練してしかもオオカナダモの研究のような文化的に意義あることをした功績によって確実に天国行きですって…そんな、そんな馬鹿な!そんな馬鹿な!
もう時間なんですか…ああそんな…あんまりだ、
せめて最後に、遅れてきたアンゴルモア大王に面会できませんか、じゃなきゃ僕は……
え、それもダメ?ああ…
ねえ、じゃあ最後の最後に質問だけ。
天国爆破したら地獄に行けますか?
へえ、だれもが優しい気持ちになる天国ではそんな事はできなくなる…ああそういうシステムなんですか。ふん、なるほど。
いいですよ。じゃあ賭けようじゃないですか。僕がそれでも天国を爆破できたとしたら、その時はあなた、僕を絶対に地獄に送ると約束してくれます?
……………え、しないの!?ちょっと待ってよそこはしようよ約束!何でだよ!ちょっと待っ…離せ!やだ!待ってくれ、待って、くださいああああああアアアアアアアアア………………………………………あははうふふ待ってくださいってばぁ、うふふ、あっお花が飛んでいる、素敵だ。
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